また3月24日は東京地方裁判所で給料ファクタリングは貸金業と判例が出ています。
その結果、給料ファクタリング会社が続々と廃業を決めて撤退しています。
給料ファクタリングでのトラブルが急増
給料ファクタリングは、会社員が勤務先から給料を受け取る権利(給与債権)を専門の業者に譲り渡すことで、本来の給料日より前に現金を手に入れる資金調達方法です。
急な出費に困っている会社員などに人気が高まっており、利用者は徐々に増えているようです。
給料ファクタリング会社は「給与の前借り感覚で気軽に利用できる」という点をアピールし、利用者を集めています。
しかし給料ファクタリングに該当する法規制がないことを背景に、悪徳業者から不当に高い手数料を要求されるトラブルも起こっています。
中には実質的なヤミ金に相当するような手数料を取られるケースもあるようです。
実際の給料ファクタリングに関するトラブル事例
都内のある20代男性が給料ファクタリングを利用し、月給の中から7~8万円分の債権を給料ファクタリング会社に譲渡しました。
手数料を差し引いた現金を受け取ったあと給料日に返済し、これを何カ月か繰り返していました。
男性が受け取っていた現金は5万円程度で、2~3万円を手数料として業者に支払っていました。
これは利息として換算すると実に年率500%超にもなり、利息制限法が定める上限金利20%を大きく上回っています。
男性はやがて資金繰りが逼迫し、司法書士事務所に相談して法的な援助を受けることになってしまいました。
給料ファクタリングについての金融庁見解
不当に高い手数料を取られても、業者側はあくまで貸付による「金利」でなくファクタリングの「手数料」と言い張るため、法的に規制できない状況が続いてきました。
こうしたトラブルを受け、貸金業を管轄する金融庁に対しては以前から「給料ファクタリングは貸金業に当たるのではないか?」という問い合わせも届いていました。
そんな中、最近金融庁がノーアクションレターへの回答により、給料ファクタリングに対する見解を発表しました。
ここでは、その内容について解説していきます。
ノンアクションレターとは?
ノンアクションレターとは法令適用事前確認手続とも呼ばれ、日本の企業や国民が特定の事柄について行政機関に対し合法か違法かの見解を確認する手続きです。
ノンアクションレターが送られた行政機関は当該確認事項に対して回答を行うとともに、その内容をWebサイトなどで公表します。
ノンアクションレターは民間企業が事業を行う際、具体的な事業活動が各種法令に抵触しないか確認するために使われます。
細かい手続きの方法は行政機関ごとに異なりますが、確認の問い合わせに対して行政機関が回答し公表するという大筋の流れは同じです。
給料ファクタリングについてノンアクションレターの内容
給料ファクタリングについてのノンアクションレターは、以下のような要旨でした。
(原文は少し難解なため、表現を分かりやすく変更しています)
金融庁の給料ファクタリングの見解
(1)法令
貸金業法
(1)論点
-給料ファクタリングは貸金業法に定める「貸金業」に該当するか。
2.照会に関する見解および根拠
(1)貸金業法の規定
-貸金業法の「金銭の貸付け」とは、金銭の交付および返還の約束があるものと考えられている。
-手形の割引、売り渡し担保などの方法による金銭の交付も、金銭交付と変換があるため、貸付けと同じと考えられる。
(2)給与債権の譲渡について
-給与債権は、労働基準法で「通貨で、直接労働者に、全額を支払わなければならない」と定められている。
-過去の判例では、労働者が給与債権を他に譲った場合でも、使用者は直接労働者に給与を支払わなければならないという判決が出されている。
(3)金融庁の見解
-ファクタリング業者は勤務先に直接支払い請求ができないため、必ず利用者に対して支払いを請求することになる。
-つまり実態として、ファクタリング業者から利用者への金銭交付、および利用者からファクタリング業者への返還というシステムができている。
-このことから、給与ファクタリングは貸付けと同じ機能を持ち、「貸金業」に該当すると考えられる。
ポイントを簡単にまとめると、
・給与ファクタリング業者は、必ず利用者と直接金銭の交付、返還を行う
・これは貸金業が定める「貸付け」に該当するため、給料ファクタリングは貸金業に該当するのでは?
ということを確認しています。
金融庁の給料ファクタリングについての回答
上記のノンアクションレターを受け、金融庁が以下の回答を公表しました。
同様に要旨を抜き出して、分かりやすい表現で記載していきます。
2.そのため給料ファクタリング業者は直接雇用者に対して給与の支払いを求めることはできず、利用者に請求することになる。
3.よって給料ファクタリングのサービスでは、金銭の交付→返還というシステムが構築されており、貸付けと同様といえる。
4.したがって、給料ファクタリングは「貸金業」に該当する。
金融庁はノンアクションレターの見解を全面的に認め、給料ファクタリングは貸金業に該当するという判断をしていると分かります。
給料ファクタリングは貸金業にあたる
これまで給料ファクタリングは、「お金の貸し借りでなく給与債権の売り買い契約なので、貸金業ではない」という理屈で貸金業法の規制をかわしてきました。
そのため、これまで貸金業者としての認可を受けることなく営業できていたのです。
しかし、金融庁のノンアクションレターに対する回答では、お金の交付→返還という一連のシステムが存在することを指摘し、給料ファクタリングは「貸金業」に該当すると明言しています。
今後、貸金業法の認可を受けずに営業している給料ファクタリング業者は貸金業法違反として処分される可能性もあります。
東京地方裁判所で給料ファクタリングは貸金にあたり現状が違反との判決
金融庁のノーアクションレターでの見解が話題になったすぐ後の令和2年3月24日に東京地方裁判所で東京地方裁判所(男沢聡子裁判長)は、給与ファクタリング取引について、貸金にあたるとの判断を示し、契約は無効であるとともに刑事罰の対象となる判決を言い渡しました。
これは、給与ファクタリング業者(原告)が、債務者(被告)に対し、7万円の債権を4万円で買取り、4日後に支払う契約で買戻し日の設定がなされ債務者が支払いを怠ったことにより、業者が債務者に対し支払いを求める訴訟を提起した事案で出されたものです。
判決
訴訟費用は、原告の負担とする。
要旨
本件取引における債権譲渡代金の交付は、「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法」による金銭の交付であり、貸金業法や出資法にいう「貸付け」に該当する。
原告は業として「貸付け」に該当する給与ファクタリングを行うものであるから、貸金業法にいう貸金業を営む者に当たる。
本件取引について、年1840%を超える割合による利息の契約をしたことが認められる。これは、貸金業法42条1項の定める年109・5%を大幅に超過するから、本件取引は同項により無効であると共に、出資法5条3項に違反し、刑事罰の対象となるものである。
したがって、原告の請求は前提を欠くものであって、理由がない。
違法な給料ファクタリング会社を規制する法律化はこれから
今回の金融庁見解に続き、司法の判断でも違法性が明確化されたことによって給料ファクタリング会社は貸金業を取得してないものは違法と判断される可能性が高くなってきました。
一方で、金融庁のノンアクションレターへの回答文書には、以下のような要旨の前文が付与されています。
・回答は、あくまでも現時点での一般的な解釈を示すものであり、個別事案に関する判断をするものではありません。
・捜査機関の判断や罰則の適用を含めた法律上の判断を下すものではありません。
つまり金融庁の回答は、一般的な考え方を示すだけのものだということです。
今後しばらくは、給料ファクタリング業者はこれまでと同様に営業していくかもしれませんが、裁判での判決の影響は大きく縮小傾向になってくると思われます。
給料ファクタリングで貸金業の登録がないところは違法になる
金融庁が給料ファクタリングは貸金業という判断を下した以上、近い将来には貸金業の登録を行っていない給料ファクタリング会社は、法律で規制されてしまう可能性が非常に高いです。
今は従来通り利用できそうだとはいえ、あくまで給料ファクタリングはグレーゾーンのサービスです。
中には悪徳業者が混じっていることもあります。
もし給料ファクタリングを利用しなければならない時があったとしても、給料ファクタリング以外の資金繰り改善の方法を検討して慎重になることをおすすめします。