売上は伸びている。利益も出ている。なのに通帳の残高が毎月減っていく。
この状態は、売上や利益を見ている限り原因が見えません。現金がどこにどれだけ寝ているかを数字で抜き出す必要があります。そのための指標が所要運転資金です。
この記事では、所要運転資金の2つの計算方法を、同じ会社の同じ数字で並べて計算します。金額で見る方法と、日数で見る方法です。

所要運転資金とは
商品を仕入れてから代金を回収するまでの間、現金は手元を離れて在庫や売掛金の形で寝ています。一方で仕入先への支払いは期日どおりに来ます。このズレを埋めるために、事業を続ける限り常に手元に置いておかなければならない金額が所要運転資金です。
重要なのは、利益が出ていても必要になるという点です。むしろ売上が伸びるほど売掛金と在庫が増えるため、必要額は大きくなります。ここを把握せずに受注を伸ばすと、帳簿上は黒字のまま現金が尽きる黒字倒産に近づきます。
なお、ほぼ同じ意味で経常運転資金という言い方も使われます。一時的な資金需要であるつなぎ資金とは別のものとして扱います。
計算方法は2つあります
どちらも同じものを測っていますが、単位が違います。金額で出す方法と、日数で出す方法です。
方法① 貸借対照表の残高から出す
売上債権は売掛金と受取手形から前受金を差し引いたもの、棚卸資産は材料・仕掛品・製品・商品の合計、仕入債務は買掛金と支払手形から前渡金を差し引いたものです。決算書からそのまま拾えるので、最も手軽な方法です。
方法② 回転期間(日数)から出す
所要運転資金=1日あたり売上高×運転資金回転期間
各回転期間は、それぞれの残高を1日あたり売上高で割って求めます。金額ではなく日数で見ることになるため、どの工程で何日分の現金が寝ているのかが見えます。改善するときにどこを触ればよいかを探すなら、こちらが役に立ちます。
同じ会社で両方を計算してみます
以下の前提を持つA社で、方法①と方法②の両方を計算します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年間売上高 | 1億2,000万円(月商1,000万円) |
| 売上債権 | 2,000万円 |
| 棚卸資産 | 1,000万円 |
| 仕入債務 | 500万円 |
方法①で計算する
方法②で計算する
まず1日あたり売上高を出します。1億2,000万円÷365日で、およそ328,767円です。これで各残高を割ります。
| 回転期間 | 計算 | 日数 |
|---|---|---|
| 売上債権 | 2,000万円÷328,767円 | 約61日 |
| 棚卸資産 | 1,000万円÷328,767円 | 約30日 |
| 仕入債務 | 500万円÷328,767円 | 約15日 |
328,767円×76日=およそ2,500万円
両方ともおよそ2,500万円になりました。同じものを測っている以上、前提をそろえれば一致します。違うのは、方法②だけが「76日分」という内訳を持っていることです。
回転期間が伸びると何が起きるか
上のA社で、売上債権回転期間が61日から91日へ伸びたとします。支払いサイトの長い取引先の比重が増えた、といったケースです。
回転期間は91+30-15で106日になり、所要運転資金は328,767円×106日でおよそ3,485万円。売上が1円も増えていないのに、必要な手元資金がおよそ985万円増えました。この差額をどこかから持ってこない限り、支払いは回りません。
逆に、支払いサイトを短くする交渉が通れば、同じ売上で必要額が下がります。受注を増やす前にここを見ておくと、忙しくなるほど苦しくなる事態を避けられます。
不足をどう埋めるか
計算した金額と手元の現金を比べて、不足している分を埋めることになります。ここで分けて考えたいのは、不足が恒常的なのか、一時的なのかです。
| 手段 | 効く時間軸 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| ファクタリング | 今月 | 一時的なズレを埋める |
| マル経融資 | 1か月前後 | 小規模事業者が恒常的な不足を埋める |
| 日本政策金融公庫・制度融資 | 1か月以上 | 運転資金の厚みを作る |
| 回転期間の短縮 | 半年から1年 | 必要額そのものを下げる |
恒常的に不足している額をファクタリングで毎月埋め続けると、手数料の累積が利益を削ります。計算した所要運転資金と手元の差額が毎月同じくらいなのであれば、その分は融資で確保するほうが負担は軽くなります。
一方で、入金日と支払日の順番がずれているだけの月は、即日ファクタリングで乗り切るほうが合理的です。審査の中心が売掛先の信用力であるため、自社が赤字決算であっても相談できる場合があります。

個人事業主の場合は個人事業の運転資金と返済財源の確保もあわせて確認してください。必要な書類はファクタリングの必要書類、複数社を比べる手順は相見積もりの取り方にまとめています。
よくある質問
2つの計算方法で結果が違うのはなぜですか
使っている数字の時点や基準がそろっていないことが多いです。月末残高と年間平均を混ぜている、仕入債務だけ売上原価基準で計算している、といったケースです。基準を揃えればおおむね一致します。
適正な所要運転資金の金額はありますか
業種と取引条件で変わるため、共通の正解はありません。比べるべきは他社ではなく自社の過去です。前期と今期で回転期間が伸びていないかを見るのが、最も実用的な使い方です。
回転期間を短くする方法は
売上債権側は支払いサイトの交渉と請求の早期化、棚卸資産側は在庫水準の見直し、仕入債務側は支払条件の交渉です。ただし仕入債務を伸ばすのは取引先に負担を移す行為なので、長く続けられる手ではありません。
ファクタリングを使うと回転期間は短くなりますか
実際に現金が戻る日は前倒しになります。ただし取引先との支払条件そのものが変わるわけではないため、使わなかった月は元に戻ります。根本的に短くするなら、条件の交渉が必要です。
前受金や前渡金はどう扱いますか
前受金は売上債権から差し引き、前渡金は仕入債務から差し引きます。先に受け取っている金額や、先に払ってしまっている金額を二重に数えないためです。
計算した額を全額手元に置いておく必要がありますか
現金で持つか、借入の枠で確保しておくかの違いはあります。重要なのは金額を把握していることで、把握していないまま受注を増やすことが一番危険です。





